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執筆者の写真坂田大輔

うっかり

空気がピリッと冷たく、澄んだ青空が高く広がっております。


さて、先日はショートステイをご利用の方で「ご自宅に郵便物を取りに行きたい」という方のお手伝いをさせていただきました。


大切な郵便物がご自宅に届いているはずなので取りに行くことと、ついでに銀行でお金をおろしたいとのことでした。その日は風もなくよく晴れた穏やかな日で、施設にお迎えに上がると、玄関でスタッフの方とお待ちでした。「晴れてよかったですね~。」と見送られながら出発です。


まずはお金をおろしたいとのことで最寄りの銀行のATMへ。車椅子をATMの正面につけて機械につかまって立ち上がります。個人情報が目に入らないように半身の姿勢でいながら、立位のバランスが崩れないように見守ります。ところがATMの画面の違うボタンをタッチしてしまったりして機械の操作がうまくいかず、なかなか手続きが進まない様子がうかがえるので時々振り返ってお手伝いをさせていただきます。何も悪いことをしているわけではないので堂々と介助すればよいのですが、「この人(私)は高齢者をだまして振り込ませているのではないか?」と周りの人たちや防犯カメラに疑われるのも困ってしまうので、とても気を使います。


無事にお金をおろすことができたので、今度はメインのご自宅へ。建物の前の道路が狭いので最寄りの駐車場に停めて車椅子で向かいます。玄関の前に到着するとご本人様が「あ~~~…。」とやるせない声を上げたのでなんとなく察しがついたのですが、

「まさか…。」

「鍵を忘れました…。」

「え~~本当ですか?鞄のどこかに入ってないですか?」

と聴くも絶対に入ってないとのこと。何度か一緒に自宅に来たことがあり、その時鍵は太くて目立つひもで鞄の取手に結んでありました。しかし今日はそれがありません。


以前郵便物を「スタッフの方に鍵を預けてとってきてもらう」という話があったようで、その時に一度鞄から外したとのことです。ところがやはり自分で取りに行きたいということで、今日ここにいるとのことでした。


「あちゃ~。」「玄関先に隠したりもしてないですよね?」と一応聴いてみましたが、それもないそうで、そうなると鍵を取りに施設に戻るしかありません。がっかりとしながら駐車場へ向かいます。


「俺はこんなんじゃなかったんやけどなあ~。だいたいきちっとしてる方やし。」

「しかも今日出発前数時間はな~んも(用事が)なくて、その時に何で気づかんやったんかなあ~…。」


と、かなり悔しかったようです。「まあ仕方ないか。」とその後はさほど引きずることはなく、施設まで戻りスタッフの方に鍵を忘れた旨をお伝えすると、すぐに「これですよね!すみません!」と持ってきてくださいました。ご本人様も「よかよか自分の責任やけん」と笑っていらっしゃいました。


かくして再びご自宅へ。お目当ての大事な書類も届いており、忘れないようにすぐに鞄に入れ、「一応入ってみるか。」とご自宅の中まで入ってみたものの、特に施設に持っていくものはなく、「ま、いっか。帰りましょう。」とおっしゃり、施設へ戻りました。


「一人暮らしができなくなり施設に入ることになる」

「きちんとしていたはずなのに忘れ物をしてしまう」


この辛さは私には想像を巡らせることしかできません。

「わかりますよ。つらいですよね。」

「くよくよ気にしても仕方ないですよ。前向きに生きましょう!」

などと軽々しく言うことは決してできません。


私には絶対にわからない、悔しく不甲斐ない、複雑な思いがおありかと思います。

ただそのお気持ちに寄り添ってお手伝いすることしかできないのです。


また行きましょうね。

ありがとうございました。

写真は深江の海岸。遠くに姫島が見えます。



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